2 釈明権
 (1) 意義
   訴訟関係を明瞭ならしめるため、裁判長又は裁判所が有する訴訟指揮権の作用として発問その他の処分をすることができる権能及びその責任をいう。弁論主義が形式的に適用されることにより生ずる不公正を是正し、できるだけ裁判所が公正な判断ができるよう裁判長又は裁判所に認められた権能である。
   訴訟指揮権とは、原告と被告との間に立って訴訟手続の進行を主宰する裁判長又は裁判所に認められたいわば議事整理権であって、口頭弁論の期日を指定したり、期日における当事者の主張・立証の順序を決めたり、場合によっては当事者の発言を禁止したりするもので、釈明権(広義)は、この訴訟指揮権行使の一環として、裁判長が当事者に問を発したり立証を促すなどして、訴訟関係を明瞭にし、できるだけ公正な判断ができるようにするものである。
   釈明権(広義)を行使するのは、裁判長の場合と裁判所(3人の裁判官の合議)の場合とがあるが、裁判長が行使する場合であっても最終的には合議体の監督に服する(民訴法150条参照)ので、釈明権行使の最終的な帰属主体は裁判所であるといえる。
 (2) 釈明権の内容
  @ 釈明権(狭義)
   裁判長が、原告又は被告に対し、発問したり立証を促す発言をすることによって、原告又は被告が、事実上又は法律上の主張をしたり、あるいは新たな証拠申出をすることを促すもの(民訴法149条1項)。
  例:原告Aが被告Bに対し甲建物の売買代金1000万円の支払いを請求している訴訟において、証拠調べの結果、被告Bが原告Aに対し契約締結後の平成7年1月16日に代金1000万円を支払ったという事実が認められることになった場合、仮に被告Bがうっかりして「BはAに対し平成7年1月16日に代金1000万円を支払った」という事実主張をしないときは、主張責任により、主要事実たる上記弁済の事実を判決において基礎とすることはできず、売買契約の事実が認められる限り、原告Aの請求を認容するという判断をしなければならないが、このような場合、裁判長が被告Bに対して釈明権の行使として問を発し、弁済の主張をするよう事実上促すことが考えられる。また、被告Bが代金支払いを証する領収書を所持していることが明らかなのに、これを書証として提出していない場合に、裁判長が被告Bに対し、釈明権の行使として、領収書の提出を促すこともできる。
   なお、一方当事者が相手方当事者の主張について、裁判長に対し、裁判長においてAに対しその趣旨を明らかにすることを内容とする釈明権を行使するよう求めることは、求問権の行使ないし求釈明という。
   裁判長の釈明権行使は、上記のように口頭弁論期日において行われるのが通例であるが、陪席裁判官も裁判長に告げて期日又は期日外にこの権限を行使でき、またこれらの権限行使を裁判所書記官に命じて行わせることもできる(民訴規則63条)。
 A 釈明処分
   訴訟関係を明瞭にするために裁判所がする処分(民訴法151条)。
  例:原告Aが被告Bに対しある範囲の土地の所有権確認を求める訴訟において、所有権の確認を求める土地の範囲を現地において特定するため、裁判所が原告Aの申請により検証を実施する。
   民訴法151条1項5号は、検証、鑑定など証拠調べとして行われるようなものも掲げているが、これはあくまでも訴訟関係を明瞭にするための釈明処分として行われるのであって、証拠調べではないから、事実の認定に際しては、民訴法247条にいう「証拠調べの結果」ではなく、「弁論の全趣旨」になるにすぎない。
 B 釈明権の限界
   釈明権(広義)は、弁論主義がとられる民事訴訟において、公正な判断がなされるため裁判所に認められた重要な権能であるが、民事訴訟にあっては、その主張・立証に関する原則はあくまで弁論主義であって、釈明権はこれを補完する権能にすぎない。したがって、裁判長が当事者に対し主張又は立証を促しても、当事者がこれに応じないときに主張又は証拠申出がなされたことになるわけではなく、弁論主義に従って判決がされる。また、原告Aが被告Bに対し売買代金の支払を求めている訴訟において、裁判長が被告Bに対し売買代金債権の消滅時効の主張をするよう促すような釈明権の行使は、裁判の公平という観点からして、問題がある。
 C 釈明権と釈明義務
   釈明権の行使をしないと不親切な裁判となり、他方で不必要に釈明権を行使しすぎると不公平な裁判となるので、釈明権は過不足なく適切に行使する必要がある。
   すなわち、釈明権(広義)を考える場合は、「してもよい」という意味での釈明権と、「しなければならない」という意味での釈明義務とに分けて考えることが必要である。そして、一般的に、後者の釈明義務の範囲は前者の意味での釈明権の範囲より狭いと考えられるが、個別的な訴訟の進行状況に応じて判断されるべき具体的な問題である。もし、「してもよい」という意味での釈明権の範囲を超えて釈明権の行使がなされた場合、「しなければならない」という意味での釈明義務に反して釈明権の行使がなされなかったときは、いずれも上級審における審査の対象となる訴訟手続違背があったことになる。


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