五 主張・立証に関する基本原理
1 弁論主義
 (1) 意義
   訴訟の基礎となる訴訟資料(具体的には例外的に許される法律主張を含めた事実主張と、証拠申出の双方を指す。)の提出は、当事者の責任であると同時に権能でもあるという原則。
   すなわち、原告の被告に対する訴訟上の請求の当否を判断する際、裁判所は、原告及び被告がした事実主張及び証拠申出に基づいて審理すれば足りる。
   これは、訴訟上の請求の当否を判断するための判断材料は当事者たる原告及び被告が持参したものだけで足り、裁判所が自らその判断材料を積極的に探索しなくてもよいという考え方であるが、民事訴訟においてこのような原則がとられる理由は、次の2つにある。
 @ 民事訴訟の対象となる民事紛争を構成する個々の事実は、関係当事者にとっては重大な意味を有するものであっても、利害関係を有しない第三者からみるとさほど関心を持つものではないという一般的事情がある。
  →事実関係の探索及び証拠の収集を、最も利害関係と熱意を持つ当事者にゆだねた方が、真実発見の近道になる。
 A 民事訴訟の対象たる権利関係(訴訟上の請求)は、当事者による処分が許される(処分権主義)ところ、訴訟上の請求についての処分が許される以上、そのいわば理由付けにすぎない事実関係の探求及び証拠の収集を当事者の処分にゆだねるのが自然である。
 (2) 弁論主義の具体的内容
 @ 主要事実は、必ず当事者の主張を要す
   主要事実について必ず当事者の主張(陳述)を必要とし、当事者が主張しない事実は、それが主要事実である限り、裁判所はこれを判決の基礎としてはならない。
   この内容を当事者からみた場合が主張責任である。すなわち、裁判所は、主要事実である限り、当事者が主張しないときはこれを判決の基礎とすることはできないから、自己に有利な主要事実については当事者の一方がこれを主張する責任があるということになる。
   主要事実が主張されないことによる当事者一方の不利益を主張責任というが、主張責任は弁論主義がとられる訴訟(主として民事訴訟)に特有の概念である。
   主張責任が問題とされるのは、あくまで主要事実についてであって、間接事実あるいは補助事実についてはその適用がない。
   これは、主要事実は、裁判の三段論法にいう大前提たる実体私法の法律要件に具体的に該当する事実であって、裁判所の審理の目標となるとともに、相手方当事者の防御の対象となるいわば当該民事訴訟の骨格となる事実であるから、主張されない主要事実はこれを考慮しなくてもよいとしても差し支えないが、間接事実は経験則によって主要事実の存否を推認させる事実であり、補助事実は具体的な証拠(例えば、契約書)の証拠力等に関する事実であって、骨格たる主要事実のいわば技葉に該当する事実にすぎず、これらの事実も主張がない限り判決の基礎とすることができないとすると、裁判所が主要事実の存否を認定する際の大きな制約となり、事実認定における民事訴訟の大原則である自由心証主義(民訴法247条)に反する。
  ★主張責任の分配
   主張責任とは、主要事実が現実に法廷において主張されないことによる当事者一方の不利益であるから、ある具体的な主要事実については、原告又は被告の一方のみがその存在又は不存在の主張責任を負い、双方が負うことはあり得ず、また、主張責任の分配は、立証責任の分配と一致する。
  例:原告Aが被告Bに対し甲建物の売買代金1000万円の支払請求をしている訴訟において、AB間の平成7年1月1日の売買契約締結の事実が争われ、「平成7年1月16日にBがAに対し甲建物の売買代金1000万円を弁済した」という事実が証拠上認定できたとしても、この事実は民法474条以下の各条文にいう「弁済」の法律要件に具体的に該当する主要事実であるから、当事者からこの事実の主張がされない以上、裁判所は、この事実の存在を判決の基礎としてはならない(したがって、裁判所は、平成7年1月1日の売買契約の存在が認められる以上、被告Bに対し売買代金1000万円の支払いを命ずる判決することになる)。
  例:他方、「Aは、不動産仲介業者Cに対し、平成6年12月中旬ごろ、甲建物の売却のあっせんを依頼した」等の間接事実については、原告Aが主張していなくても裁判所は証拠によりこの事実を認定することができ、原告Aが売買契約書を書証として提出し、「B名義部分はBが作成した」という補助事実の主張をしている場合において、裁判所が他の証拠により「B名義部分はCが作成した」という事実を認定して判決の基礎とすることができる。
 A 当事者間に争いのない主要事実は、そのまま判決の基礎としなければならない
   原告と被告との間で争いがない(自白又は擬制自白が成立したもの)主要事実は、判決においてはその事実を真実であるとして取り扱わなければならない。なお、具体的な法律効果の主張につき相手方当事者がこれを認めたいわゆる権利自白が成立する場合も、法解釈を主宰する裁判所の権限を侵害するものでない限り、事実主張に関する自白と同様の扱いをしてよい。
   主要事実の存否につき当事者間に争いがないときは、これをそのまま判決の基礎としなければならないという意味で裁判所の事実認定を拘束する(自白の裁判所拘束力)。
   しかし、拘束力が生ずるのは主要事実についてのみであって、間接事実・補助事実については適用がない。これは、証拠資料と同じく主要事実を経験則によって認定するための資料にすぎない間接事実及び補助事実について当事者が自白した場合、裁判所がこの自白に拘束されるとすれば、主要事実の存否についての裁判所の自由心証を左右する権能を当事者に認めることになり、不都合であるからである。
  例:原告Aが被告Bに対し甲建物の売買代金1000万円の支払いを求めている訴訟において、原告Aが「AとBは平成7年1月1日に甲建物をAからBに代金1000万円で売る合意をした」と主張し、被告Bがこれを「認める」と述べて自白が成立した場合、裁判所が、証拠上、平成7年1月1日の売買契約の存在は認められないと判断したとしても、この事実は民法555条の法律要件に具体的に該当する主要事実であるから、この売買契約は在しないということを判決の基礎とすることはできず、売買契約は存在するとして判決をしなければならない。
  例:他方、原告Aが「Aは、不動産業者Cに対し平成6年12月中旬ころ、甲建物の売却のあっせんを依頼した」という間接事実の存在を主張し、被告Bにおいてこれを「認める」と述べた場合、及び原告Aが書証として提出した売買契約書に関し、「B名義部分はBが作成した」という補助事実の存在を主張し、被告Bにおいて「B名義部分の成立を認める」と述べた場合でも、裁判所はこれらの自白には拘束されず、証拠により、「Aは不動産業者Cに対し甲建物の売却のあっせんを依頼したことはなかった」とか、「売買契約書のB名義部分はBではなくCが作成した」という事実認定をして判決することができる。
   なお、「自白の拘束力」には、裁判所の事実認定を拘束するという側面のほか、当事者自身に対する拘束力、すなわち自白をした当事者がその自白を撤回することは原則としてできないという側面もある(自白の当事者拘束力)。相手方当事者の主張した事実が主要事実である場合は、撤回につき相手方が同意したときか、又はその自白が「錯誤に基づき」かつ「真実に反する」ことを主張・立証できたときに許される。なお、間接事実又は補助事実については、自白の撤回は自由にできる。
 B 証拠資料は、当事者の申し出た証拠方法に基づいて獲得しなければならない
   裁判所が証拠調べをすることができるのは、原則として、原告又は被告が証拠申出をした証拠方法の中からでなければならない。すなわち、職権証拠調べは原則としてできない。
   民事訴訟は、私人間の生活関係上の争いである民事紛争を解決するための1つの手段にすぎないので、当事者が申し立てない証拠につき裁判所が職権で取り調べるというのは、いかにも行き過ぎと考えられ、職権証拠調べは原則として許されない。ただし、当事者本人尋問については、当事者本人という意味で当該訴訟に深い関係があるので、例外的に職権証拠調べも許される(民訴法207条)。


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