(4) 請求の特定
 @ 特定の必要性
   訴訟上の請求は、原告の被告に対する一定の権利関係の主張のことであるが、その特定が十分にされ、他の請求と識別できることが、当該訴訟の命題を把握する上で必要である。
   訴訟上の請求ないし訴訟物を把握することは、@既判力の客観的範囲(民訴法114条)、A請求の併合(同136条)、B重複する訴えの有無(同142条)、C訴えの変更(同143条)等について判断する上で必要であり、これらの概念の把握が十分にされるためにも、訴訟上の請求ないし訴訟物が他と識別できることが前提となる。このような意味において、訴訟上の請求ないし訴訟物の特定は、訴訟の出発点であり、それがされていないときは、その訴えは不適法となる。
 A 特定の要素
   訴訟上の請求ないし訴訟物は実体法上の概念により把握する(旧訴訟物理論)から、実体法上の性質の違いによりその特定要素は異なる。
   訴訟物が物権的請求権の場合、物権とは人(主体)が物(客体)の価値を直接に支配することを内容とする権利であり、同一の主体・客体間に同一内容(所有権か地上権か等)の物権が重複して成立することは通常有り得ない(例えば、Aが甲建物につき有する所有権といえば、1個しかない。)という性質を有しているから、@権利の主体、A権利の客体、B権利の内容、の3要素により特定される。
   訴訟物が債権的請求権、又は物権的請求権であっても当該物権が同一の主体客体間で重複して成立することが考えられる担保物権の場合では、そもそも同一主体客体間で同一内容の権利は重複して発生することが考えられる(例えば、AのBに対する貸付金債権は、契約さえすれば、何個でも発生し得るし、抵当権でも、2番抵当権と3番抵当権を並有するということもある。)ので、@権利の主体(債権のときは債権者)、A権利の客体(債権のときは債務者)、B権利の内容(債権のときは売買代金か貸金かあるいは遅延損害金か等)のみならず、C権利の発生原因(具体的な日時を伴った契約、不法行為等)も加えて特定する必要がある。
 (5) 基本原則ー処分権主義
 @ 意義
   訴訟の開始・終了・審判対象の特定は、当事者の自由にゆだねるという原則。
   理由:民事紛争の解決制度についての理念として、原則的には当事者間の自主的解決(私的自治)にまかせ、それができないときに、できない限度で国家が紛争解決に介入(後見的介入)する→民事紛争に対する国家の介入の最たる民事訴訟においても、できるだけこの理念を生かす必要がある。
 A 内容
   処分権主義の具体的内容は以下の3つである。
 イ 申立てなければ裁判なし
   民訴法133条1項が「訴えの提起は、訴状を裁判所に提出してしなければならない」としていることから明らかなように、「民事訴訟を提起するかどうか」及び「提起するとして、いかなる訴訟上の請求ないし訴訟物として法律構成するか」は、申立てをする原告において自由にこれを決め、それを訴状に記載して裁判所に提出すれば、その時点で初めて、しかもその訴状に記載された訴訟物を基準に、審理が開始される。
  例:Aが所有権を有しかつ居住(占有)する甲建物につき、Bが実力でAを追い出しその占有を奪った場合、実体法的には、AはBに対し、所有権に基づく明渡し及び占有権に基づく明渡し(民法200条)を請求できるが、この紛争の解決を、示談でするか、調停でするか、仲裁でするか、それとも民事訴訟でするかは、すべて訴訟を提起しようとするAが決める。そして、Aが民事訴訟による解決を選択した場合であっても、所有権に基づく明渡請求とするか、占有権に基づく明渡請求とするか、あるいはこれら2つの請求を併合する(請求の併合)かは、すべて原告たるAが自由に決める。裁判所は、Aが原告として訴状を裁判所に提出したときに、しかもその訴状に記載された請求(所有権に基づくか、占有権に基づくか等)についてのみ、その審理を開始する。
 ロ 申立ての限度で裁判をする
   民訴法246条は「裁判所は、当事者が申し立てていない事項について、判決をすることができない」と規定している。これは上記イの内容と基本的な差異はなく、いわば上記のイの内容の量的な面にすぎない。
  例:AがBに対し甲建物を1000万円で売り渡し、Bがその代金全額を支払わない場合、実体法的には、売主Aは買主Bに対し、その代金1000万円全額の支払いを求めることができるが、原告Aが被告Bに対し代金1000万円の内金600万円だけの支払いを求めて民事訴訟を提起しているとき(一部請求)には、裁判所は、被告Bに対し代金1000万円の支払いを命ずるのが妥当だと考えても、原告Aが民事訴訟による解決を求めているのは内金600万円の支払いだけであるから、被告Bに対し内金600万円の支払いを命ずる判決しかできない。もし、600万円を超える金額の支払を命じたときは、その判決は、「当事者が申し立てていない事項について判決を」したことになって、違法な判決ということになる。
   なお、原告が条件付きの判決を求めているときに裁判所が無条件の判決をすることも「申立てていない事項について判決を」したことになることに注意する必要がある。これは、制限付の申立ては無制限の申立てよりも量的に小さい内容であるということによるものである。
  例:売主Aが買主Bに対し甲建物の売買代金1000万円の請求をする場合、民法533条によればBのAに対する代金1000万円の支払義務とAのBに対する甲建物所有権移転登記義務とは同時履行の関係にあるから、売主Aが買主Bに対し代金1000万円の支払請求をする場合、Bから上記内容の同時履行の抗弁が主張されるのを先取りして、原告Aにおいて、「原告Aが被告Bに対し甲建物につき平成7年1月1日売買を原因とする所有権移転登記手続をするのと引換えに、被告Bは原告Aに対し代金1000万円を支払え」との内容の判決を求めているときに、裁判所が無条件に「被告Bは原告Aに対し代金1000万円を支払え」との内容の判決をすれば、民訴法246条違反になる。
 ハ 当事者が争っている限りで裁判をする
   いったん原告において民事紛争の解決を民事訴訟に求めたときにおいても、その途中で、当事者間の紛争解決についての合意ができたり、当事者の一方が相手方の言い分を全面的に認めたりすること等により、裁判所が判決をする必要性が消滅したときは、訴訟は終了する。
   原告において民事訴訟を追行する必要性が消滅したと判断したときは、訴え取下げ(ただし、一定の時期以降は、被告の同意が要件となる(民訴法265条)ができ、原告と被告との間において「互ニ譲歩ヲ為シテ」民事紛争をやめることを裁判官の面前で合意したときは、訴訟上の和解(民訴法89条、267条)となり、更に被告において原告の訴訟上の請求は理由がある旨を裁判官の面前で陳述したときは請求の認諾(民訴法266条、267条)、原告において自己のした訴訟上の請求は理由がない旨を裁判官の面前で陳述したときは請求の放棄(民訴法266条、267条)ということになり、それぞれ訴訟が終了し、裁判所は判決する必要がない。なお、この場合、訴訟上の和解・請求の認諾・請求の放棄の内容は裁判所書記官の作成する調書に記載されるが、その記載は確定判決と同一の効力を有することになる(民訴法267条)。
  例:売主Aが買主Bに対し甲建物の売買代金1000万円の請求をしている場合において、原告Aが訴えをやめることにしてその取下げをする旨を裁判所に申し出れば訴え取下げにより、原告Aと被告Bとが互譲により「BはAに対し代金600万円を支払い、Aはその余は放棄する」旨の合意をすれば訴訟上の和解により、被告Bが代金1000万円を無条件で支払うことに同意したときは請求の認諾により、原告Aにおいて自己のした代金1000万円の支払請求は理由がないことを自認したときは請求の放棄により、それぞれ訴訟は終了する。


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