5 請求
 (1) 訴訟上の請求(訴訟物)の意義
   訴訟上の請求の定義を一口で言えば、「原告の被告に対する一定の権利関係の主張」であり、この権利関係は実体法上の概念を基準に把握される。この考え方は、訴訟上の請求(これは、審判の対象という意味で「訴訟物」といわれることもある。)を実体法上の概念を中心に考える旧訴訟物理論である。これに対立するものとして新訴訟物理論というものがあり、これは、必ずしも実体法上の概念にとらわれないで訴訟物概念を把握する考え方であるが、実務は旧訴訟物理論で運営されている。
 (2) 訴訟物の把え方についての具体例
  例:Aが自己の所有する甲建物に居住している場合において、Bが実力行使によりAを追い出し自ら居住することとなったとき
  →実体法上、AはBに対し、@Aが甲建物につき有する所有権に基づいてその明渡しを請求できるとともに、AAが甲建物につき有する占有権に基づいてその明渡しを請求できる(民法200条)。この場合、AのBに対する甲建物の明渡請求は、所有権に基づく物上請求権として行使するか、占有権に基づく占有訴権としてこれを行使するかにより、原告Aの被告Bに対する権利主張の内容は異なるので、旧訴訟物理論による限り、所有権によるか占有権によるかにより、訴訟上の請求ないし訴訟物が異なるということになる。
   これに対し、新訴訟物理論によれば、この例のような特定物の明渡請求のときは「明渡しを求め得る法的地位」が訴訟物の単位となるので、所有権に基づくか占有権に基づくかで訴訟物が異なることはなく、所有権か占有権かはそれぞれ前記法的地位を理由付ける事由になるにすぎないことになる。
 (3) 訴訟上の請求の種類(訴訟の三類型)
 @ 給付訴訟
 イ 意義
   特定の給付請求権に基づく給付を求める訴え
   すなわち、私人が民事紛争の解決を民事訴訟に求める場合、その内容は、原告が被告に対し金員の支払いとか建物の明渡しなどの何らかの作為又は不作為を求めることが大部分であり、このような作為又は不作為の請求を、実体法の定める特定の給付請求権に基づいてする場合、これを給付の訴えという。給付の訴えを提起する原告の目的は、執行力ある給付判決を得ることにあり、被告がこの判決に従わないときは民事執行法により強制執行を受けることになる(執行力)。
  例:原告Aが被告Bに対し甲建物の売買代金1000万円の支払いを求めたい場合、この訴訟は、「1000万円の支払い」という給付を「平成何年何月何日にされた売買契約に基づく甲建物についての売買代金請求権」という給付請求権に基づくものであるから、給付の訴えである。そして、被告Bに対し売買代金1000万円の支払いという給付を命ずる判決(給付判決)がされ、Bがこれに応じないときは、Aはこの判決に基づき強制執行をすることができる。
 ロ 分類(現在の給付と将来の給付)
   現在の給付の訴え→即時の給付を求める場合
   将来の給付の訴え→将来の時点が到来したときの給付を求める場合。
   将来の給付の訴えは、民訴法135条が規定するように「あらかじめその請求をする必要がある場合に限り」、これをすることができる。必要がないときにされた将来の給付の訴えは不適法となる。必要があるとされるのは、例えば、現時点から被告が給付義務の存在を争っていて将来の時点においても同様であると予想される場合等である。
   なお、現在か将来かの判断の基準時は、訴え提起時ではなく、口頭弁論終結時(判決の直前の口頭弁論期日)である。これは、判決が口頭弁論終結時を基準にして訴えの適否及び請求の当否を判断するものだからである。
 A 確認訴訟
 イ 意義
  特定の権利関係の存否の確認を求める訴えをいう。また、権利の存在の確認を求める訴えを積極的確認の訴え、権利の不存在の確認を求める訴えを消極的確認の訴えという。
   給付の訴えにおいては、原告の請求が理由のあるものである限り、裁判所が被告に対し判決の形で作為又は不作為を命じ、もし被告がこれに従わないときは債権者たる原告の申立てにより、一国家機関たる裁判所又は執行官がその内容を強制執行できる執行力が生ずるのに対し、確認の訴えにおいては、裁判所が公権的に原告のいう権利関係の存在又は不存在を確認するだけであって、強制執行という問題が生ずる余地はない。ただ、原告の請求を認容する判決がされた場合、後に提起される訴訟において前の判決に反する判断ができなくなるという効力(既判力)が生じるので、確認の訴えは、既判力を取得するのが目的といえる。
  例:AとBとの間で所有土地の境界につき争いがある場合に、Aが原告となりBを被告として、「係争土地につきAが所有権を有することを確認する」との訴えが確認の訴えである。この場合、Aは、Aが係争土地につき所有権を有するという、積極的な権利関係の確認を求めているので、これを積極的確認の訴えとよぶ。
  例:AがBに対し甲建物の売買代金1000万円の支払いを要求している場合に、これを争うBが原告となりAを被告として、「原告Bは被告Aに対し、平成何年何月何日の売買契約に基づく甲建物の売買代金1000万円の債務を負担しないことを確認する」との訴えも確認の訴えであるが、この場合、Aは売買代金支払債務を負担しないという、消極的権利関係の確認を求めているので、これを消極的確認の訴えとよぶ。
 ロ 対象についての制限
   裁判所が確認することができる範囲は論理的には極めて広範囲であるが、これを法律専門家たる裁判宮の判断可能な、しかも現時点において裁判所が判断を示す実益のあるものに、その確認の訴えの対象を制限する必要がある。
   原則として現在の権利関係の存否についてのみ確認の訴えが可能である。法律上の争いではない科学上・宗教上の論争の正否を求める場合、法律上の紛争があっても権利関係でない事実の確認の場合(例:AB間で平成7年1月1日に甲建物の売買契約が締結されたことの不存在の確認を求めること等)、権利関係の確認であっても過去の権利関係の確認(例:平成7年1月1日にされた前記売買契約が無効であることの確認を求めること)はいずれも確認の訴えとなる資格がない。なぜなら、上記のような場合は、BはAに対し、端的に、平成7年1月1日に締結された前記売買契約に基づく売買代金1000万円の債務の不存在確認という、現在の権利関係の確認の訴えを提起できるからである。
   ただし、例外として、「法律関係を証する書面の成立の真否」については過去の事実の確認であっても可能である(民訴法134条)。これは、過去の事実関係であっても、契約書、遺言書等のように法律関係を証する重要な書面がある特定の人の意思に基づいて作成されたかどうかは民事紛争の解決に重要な意味を有するからである。
 ハ 要件−確認の利益
   確認の訴えは、上記イの制限を満たしている場合であっても、裁判所が判決という形で判断を示す現実の必要性があることも要件とされている。これを確認の利益という。
  例:Aが原告となり隣接地所有者Bを被告としてその境界付近の土地につき所有権確認の訴えを提起する場合、被告Bが原告Aの主張する土地の所有権をもともと争っていない場合は、AB間に裁判所による解決を必要とするほどの紛争はないから、確認の利益を欠くものとして、不適法な訴えとなる。

 B 形成訴訟
 ア 意義 
   形成とは、法律関係を直接に変動させることであり、形成の訴えは、形成権の行使を裁判上のものとされたものについて、裁判による形成を求める訴訟であるが、裁判をする要件(形成要件)がなければならないので、結局、形成の訴えとは、特定の形成要件に基づく形成を求める訴えである。具体的にどのような形の形成の訴えを提起できるかについては、各法律に明文の定めがあるのが通常である。形成の訴えにおいて原告の言い分が正しいときは、形成を内容とする判決がされ(形成判決)といい、対世効のある形成力が生ずる。
  例:裁判離婚
   AとBが夫婦であった場合において、Bが平成7年4月10日に不貞行為をしたときは、民法770条1項1号に基づき、Aが原告となりBを被告として、裁判所に対し、「原告Aと被告Bとを離婚する」との判決を求める形成の訴えを提起することができ、もし原告の言い分が理由のあるものであれば、AB間の婚姻関係の解消(離婚)を内容とする判決がされる。
   この場合、「一方の配偶者Bが平成7年4月10日に不貞行為をしたこと」が民法770条1項1号に該当する「特定の形成要件」であり、「AとBとを離婚する」ことが「形成」に該当することになる。もっとも、離婚を求める訴訟は、人事訴訟手続法という特別法による。
  例:詐害行為取消権
   詐害行為取消権は、例えば売主Aが買主Bに対し金1000万円の売買代金債権を有している場合において、債務者Bがこれを免れるためその唯一の財産である甲建物を身内のCに贈与し所有権移転登記を経由したとき(この日付けを、いずれも平成7年5月10日とする。)は、この贈与という債務者Bの行為は、債権者Aの債権を害することを知ってしたものと認められるので、債権者Aはこの贈与契約の取消等を裁判所に請求できる。この場合、詐害行為取消権は、債権者が、債務者の許からその詐害行為により逸失した財産(又はこれに代わるべき利得)の返還を求めるに必要な限度において相対的にその効力を否認するもの(相対的形成)とされているから、原告となるのは債権者A、被告となるのは受益者Cであって(Bを被告とする必要はない。)、その内容は、「@BC間で平成7年5月10日にされた甲建物の贈与契約を取り消す。A被告Cは甲建物につき○○法務局平成7年5月10日受付第○○○○号所有権移転登記の抹消登記手続をせよ」等というものとなる。したがって、詐害行為取消訴訟は、給付の訴えに形成の訴えが加味された性質の訴えといえる。
 イ 形式的形成訴訟
   形成の訴えが純然たる訴訟事件ではなく、実質的には行政権の作用と同様に裁判所が自由な裁量によりこれを決する非訟事件の性質を有するが、種々の理由から民事訴訟と扱われている訴訟。認容判決の内容が形成判決であり、これを民事訴訟手続で行うことから、形式的形成訴訟と名付けられた。
   すなわち、形式的形成訴訟とは、形成要件の定めのない形成の訴えである。この類型に属する訴訟においては、裁判所は、原告の言い分が認められないとして「請求棄却」の判決をすることはできず、必ず具体的な結論を判決の形で示さなければならない。また、裁判所がその結論を判決の形で示すときは、原被告双方の言い分にとらわれず、独自の判断を示すことができる。
  例:共有物分割訴訟
   甲土地につきABが共有持分を有する場合において、AB間で甲土地の分割方法について合意が成立しないときは、A又はBの一方が原告となり、他方を被告として、甲土地の共有物分割訴訟を提起することができる。
   この場合、原告となった者は一定の分割方法(例えば、或る境界線による現物分割)を主張し、他の者は他の分割方法(例えば、別の境界線による現物分割)を主張するのが通常であるが、裁判所は、判決により必ず具体的分割方法を示さなければならないものの、当事者双方の言い分にとらわれることなく、例えば民法258条2項ただし書にいういわゆる価額分割を内容とする判決をすることもできる。そして、判決が確定すれば、その判決内容どおりの法律効果が形成される。
  例:境界確定訴訟
   甲地と乙地とが隣接していてその具体的な境界線につき争いがある場合に、その所有者同士(AとB)がそれぞれ原告と被告となり、公法上の地番と地番の境界を現地において確定することを内容とする訴えをいう。
   この訴訟も、共有物分割訴訟と同じく、裁判所は必ず判決という形でその具体的な境界線を示さなければならず、原告・被告の指図した境界線にとらわれることなく、裁判所独自の立場で境界線を示すことができる。そして、判決が確定すればその判決内容どおりの境界線が形成される。


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